フォースフィードバック技術

IT化により進化する自動車は、移動手段から快適空間へ

外部ネットワークとのアクセス、自動車内部の電子化。
大きく変わる自動車のなかで、
エレクトロニクス技術がドライバーの快適さをアシストします。

人工的な「現実」それはリアルな日常生活

ネットワークの世界やゲームなどで、よく耳にする「バーチャル・リアリティ」(※1)。コンピュータで人工的に現実感を作り出し、人間の感覚に作用する「人工現実感」のことです。従来はCG(コンピュータグラフィック)や音響効果など、主に対象としていたのは視覚や聴覚でした。現在ではそれらに加え、「触覚」に対する働きかけが注目されています。

私たちが現実だと考える世界は、人の感覚器(視覚・聴覚・触覚など)を通じて脳に送られた信号です。脳が感じていることは、本当に現実なのか。それとも、脳の錯覚なのか。「バーチャル・リアリティ」をテーマにした映画や小説も、数多く発表されています。

でも最近では、映画や小説の世界ではなく、あなたのすぐそばにも「バーチャル・リアリティ」が活躍しています。

※1)「バーチャル=仮想・虚構」にあらず

「Virtual Reality」という用語は、NASA(米航空宇宙局)が企画した「VIEW」(仮想環境ワークステーション)というシステムの開発プロジェクトで使い始めた言葉。1987年のことです。以来、コンピュータシステムで現実感を作り出す技術の総称として、一般にも認知されています。ちなみに、日本バーチャル・リアリティ学会では、「virtual=みかけや形は原物そのものではないが、本質的あるいは効果としては現実であり原物であること」と定義しています。

触覚を刺激する技術フォースフィードバック技術

ガソリンの代替燃料に関する話題で、自動車の環境性能が注視されています。

自動車には走行性能に加えて、安全性・快適性・環境性が重要なポイント。こうした性能向上のカギを握るのが、自動車の電子化です。

自動車の内部では、すでに様々な機能が電子制御されています。安全性を高めるシステム、快適性を考えた機能など多種多様。また、情報システムの推進(※2)など自動車のIT化も進化しており、新たな機能も増加しています。

しかし機能の増加と裏腹に、車内には多数の操作スイッチが必要となり、ドライバーの操作は煩雑さが増しています。しかも、ドライバーが、運転とは別に、車室内の操作状況を目で確認する回数が増えれば、運転の安全性を損なうことにもなりかねません。

「スイッチの数を減らすため、1つのスイッチを多機能に使えないか」

「ドライバーが目で確認しなくても、操作確認できる方法はないか」

その解決策としてアルプス電気が着目したのは、人間が持つ感覚を生かしたフォースフィードバック技術。この技術を用いて人工的に触覚を作り出し、人の触覚で操作する「ハプティックコマンダ®」を開発しました。

※2)道路が情報を発信

「ITS(Inteligent Transport System=高度道路交通システム)」とは、最先端の情報通信技術を用いて人と道路と車両を情報ネットワークで結合。交通事故、渋滞など、道路交通問題の解決を目指す新しい交通システムです。道路交通情報を伝達する「VICS」や「ETCシステム」も、その一端です。

操作者に触覚を作り出すフォースフィードバック技術

触覚は1秒間に、1,000回の圧力変化も認識可能。人間の手指は、多数の感覚を感じ分けることができるといいます。ならば、1つの操作ノブにA機能、B機能と複数の機能を搭載。機能ごとに異なる操作感触を付与(A機能=A感触、B機能=B感触)できれば、人の手指はそれを感じ分けることができるのではないか…このアイデアから生まれたのが、ハプティックコマンダ®です。

基本動作(感触)

フォースフィードバック技術で、複数の操作感触を人工的に作成。1つの操作ノブに、各機能(オーディオ、ナビ、エアコンなど)の操作ごとに異なる感触を設定します。これで、1つの操作ノブで複数の機能を操作することができ、操作ノブの数を減らせます。また同時に、操作感触で操作状況を確認できるため、目で確認する必要がありません。

ハプティックコマンダ®の動作原理は、内蔵したモーターで操作感覚(反力)を作り出すもの。モーターはソフトウエアで制御します。まず操作ノブをX、Y方向に動かすと、位置センサが作動して動きを察知。コントロール部は、ノブの動きがどの機能(オーディオ、ナビ、エアコンなど)への操作情報なのかを感知。操作ノブに作用する反力を計算し、モーターに指令を出して感触を与えます。

ハプティックコマンダ®は理論的には、私たちが日常生活で感じる触覚はほとんど作り出すことができます。

自動車の「未来」に欠かせない技術

自動車の電子化で今後大きなテーマとなるのは、「X-by-Wire」(※3)…走行系に関わる「シフト」「ブレーキ」「ステアリング」の電子制御です。自動車の走行系は、これまでメカ的機構によって動かされてきました。「X-by-Wire」は、走行系の操作にメカや油圧などを使用せず、すべて電子化…「by-Wire」で行うというものです。

しかし、電子制御による操作システムには問題点があります。操作情報が電気信号として伝達されるため、当然ながらメカ的駆動による「反力」はありません。操作者(ドライバー)からは、車両状況や操作感覚、路面情報収集の手段が失われてしまいます。例えば、ブレーキを踏み込んでも反力がないので、踏んだという感触がない。悪路を走行していても、シャフトが伝えていたガタツキがないので、それに気づかない。こうした状況は、ドライバーから感覚による危機管理能力を奪う危険な状態です。

この情報欠落を補うため注目されているのが、フォースフィードバック技術で反力を人工的に作り出し、操作者に伝える機能…「フォースフィードバック機能」です。「X-by-Wire」で適切にドライバーへ情報提供するためには、「フォースフィードバック機能」は欠かせない技術と考えられます。

アルプス電気では、ハプティックコマンダ®に生かされたフォースフィードバック機能を応用。「X-by-Wire」で、必要な情報をドライバーへ「感触」として伝える独自システムを実現しています。

ハプティック®ステアリングホイール

ハプティック®ステアリングホイール

ハプティック®スティック

ハプティック®スティック

ハプティック®ペダル

ハプティック®ペダル

※3)空も道も「By-Wire」で進む

「X-By-Wire」は「Fly-By-Wire」が始まりです。「Fly-By-Wire」とは、航空機の電子制御フライト・コントロール・システムのこと。コンピュータを使い、より簡単な操作を実現し、安全性も高めています。1988年にエアバス社で導入されました。それを自動車に取り入れたのが、「Drive-By-Wire」です。

「バーチャル・リアリティ」が夢見る未来のリアル

「バーチャル・リアリティ」は、映画や小説の世界を飛び出して、私たちの生活にすでに浸透し始めています。今後はアミューズメント分野だけでなく、医療・福祉、科学技術など、様々な分野での活用が期待されています。

身近にある「バーチャル・リアリティ」を体験したいなら、自動車に乗ってみてください。そして自動車を運転する時、操作する手・指・足の感覚に集中してみてください。それはもう人工的な感触…「バーチャル・リアリティ」になっているかもしれません。